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①供給過剰でムーブメントに終止符
②東方神起の分裂がムーブメントの1つの要因
③BIGBANGや東方神起の人気に変わりなし
④音楽の多様化の中でK-POPアイドルは?
⑤こつこつした努力が実を結ぶはず
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140206/259387/?P=1
K-POPはサブカルであるべき
韓国音楽の専門家、古家正亨氏に聞く
オールドハウス社長の古家正亨氏。韓流スターやK-POPアーティストのイベントでMCや通訳を400回以上務め、韓国のエンタメファンであれば一度は顔、名前を見たことがあるだろう(写真:深澤明、以下同)
一時、あれだけテレビや雑誌などをにぎわせていた「K-POP」という文字をめっきり見なくなってきた。日韓関係に修復の兆しが見えない中、K-POPはこのまま日本においてシュリンクしてしまう一方なのか。韓国の音楽事情に詳しいオールドハウス社長の古家正亨氏に聞いた。
(聞き手は木村 知史)
日韓関係が緊張する中、一般人から見るとK-POPも下火のような感じを受けています。政治情勢は、やはりK-POP人気にも影響を与えているのでしょうか?
古家:まず1つ言えるのは、政治的な問題は、それほど日本のK-POP人気に影響は与えていないということです。
でも明らかにK-POPという文字をテレビの地上波などで見る機会が減ったのと日韓関係が冷え込んだのは同じ時期のように思います。
古家:政治情勢が全く影響を与えていないかと言うと、多少は関係があるかもしれません。でも、K-POPが地上波から消えたのは、単に飽きられたから、という側面は否定できません。数字が取れなくなれば、当然、テレビからも消えますよね。またムーブメントを牽引するような存在が出てくれば、自然と露出も増えてくると思います。
日本におけるK-POPの人気は、2010年の春にKARAが初めて日本でイベントを開催したのが契機です。そして、その年の夏に少女時代が上陸して一気に爆発しました。翌2011年には、ビジネスのピークを迎えます。ただ、この仕事をしていて、2012年の春にはピークを過ぎたなということを体感的に感じました。
K-POPブームは、わずか2年だったというわけですね。
古家:皆、K-POPブーム、K-POPブームと言うんですけど、私は今でも、K-POP“ブーム”は起こっていないと信じているんです。あくまで“ムーブメント”だと。
2010年以前から、ドラマのOST(オリジナルサウンドトラック)や、SHINHWA(神話)やSE7EN(セブン)、ピ(RAIN)といった韓国の人気アーティストを通じて、韓国の音楽に関心を持っていた一定数のファンが既に存在していて、立派なサブカルチャー(サブカル)として成立していたんです。実はその構造は今でも全く変わっていません。根強いファンがいて、ライブもあるし、CDデビューも相次いでいますし、大きな音楽ビジネスが成り立っています。ですから、2011年当時が異常というか、単にメディアが作り上げたブームだと私は感じています。ただ、結果的にK-POPファンの裾野は広がりましたけどね。
韓国には東方神起という、日本でも絶大な人気を誇るアーティストがいます。彼らは韓流ブームと言われた2003年から2004年の直後の2005年に日本デビューを果たし、そしてじわじわと人気を上げ、J-POP界のトップアーティストにまで登り詰めました。ですから、2009年には相当数、東方神起に触れて、そこから、韓国の音楽に興味を持ったファンがいたわけです。
ただ、東方神起の場合は、純粋なK-POPアーティストとは言えず、どちらかというとJ-POPアーティストといった方が良いかも知れません。
一部記事抜粋・・・
【東方神起の分裂がムーブメントの1つの要因】
―基本的なことですみません。東方神起はJ-POPアーティストなんですか?
古家:J-POPですね。完全に。K-POPのカテゴリーには入らないですね。
なぜなら、東方神起をK-POPという意識で聞いているファンが少ないからです。2000年のBoAのデビューもそうでしたが、東方神起も日本では完全に現地化したアーティストなんです。日本語で話して、日本語で歌うわけですから、日本のアーティストと変わらないですよね。
もちろん、「トンバンシンギ」という韓国語の呼び名にこだわるファンもいます。ですから、「トンバンシンギ」が好きなK-POPファンもいるとは思いますが、J-POPシーンで活躍している「とうほうしんき」を好きなファンが圧倒的に多いと思います。それだけ1アーティストとして勝負できるブランド力を誇っているということです。
そして、彼らを通じて韓国に興味を持ったという人も少なくなく、その点でぺ・ヨンジュンさんが、ドラマを通じて日韓を近づけた とすれば、東方神起は音楽を通じて、日韓を一気に近づけてくれた存在だったとも言えます。
―よく分かりました。話を元に戻しましょう。古家さんが言うところのK-POPのムーブメントが来る以前の2009年には、既にサブカルとして市場があったと。
古家:2009年と言えば、東方神起の分裂問題<注>があった年です。東方神起から韓国に触れた人が多い中、突然、東方神起の活動が中断してしまった。そんな人たちがさまよっていた時期です。
<注>東方神起は2004年1月に韓国で、2005年4月に日本でデビュー。両国を中心に活動している。当初5人のメンバーで活動していたが、所属していた芸能事務所のSMエンターテイメントの契約内容に不満を抱いていた3人のメンバーが離脱。
2009年夏から活動を休止した。その後、残ったメンバー2人で2011年から活動を再開している。
その2009年というと、韓国では空前のガールズグループブームが起こっていました。そういった流れの中で、東方神起を介して韓国に触れた人たちが、もっとフィールドを広げたいということで、インターネットを通じて、K-POPのより深い世界を調べ始めたときに、ヒットしたコンテンツがガールズグループ・・・。同じ女性として見て、日本の女性アイドルにはない面白さがあることに気づいた一部のファンが、SNSなどを通じてその面白さを拡散していった。ですから、日本においても2009年ぐらいから、ネット上ではすでにK-POP、特にガールズグループは、盛り上がりを見せていたんです。
そして、2010年にKARA、少女時代が来日して一気に盛り上がりが爆発した。若い女の子たちが、「KARAだ、少女時代だ」と突然に言い始めたんですね。それを知った日本の音楽関係者が「これは面白いコンテンツだ」と感じて、次々とレコード会社が契約を結び始めた。以降、多くのグループが日本でデビューすることになります。このようにガールズグループが先導する形で、ムーブメントが盛り上がっていきました。
ただ、これを機にファンが急激に増えたかというと、実は、2009年当時とそれほど変わってはいません。東方神起をきっかけに韓国音楽の面白さを知った人が、K-POPアイドル、特にガールズグループに興味を持ったというだけで、それほどファン数は増えていないというのが実感です。もちろん、ムーブメントが起こると必ず出てくる、いわゆるにわかファンは数多く生まれましたが。
ムーブメントが起こった2010年から2011年にかけては、CDの売上枚数も当然、増えました。ただ、これも同じ人が何枚もCDを買ったから増えたという背景があります。実際に私が大学院の研究のためにリサーチした結果があって、2010年から11年にかけて、K-POPのCDを買ったことがあるという人を対象に調査した結果、月平均で5枚のK-POP関連のCDを買っていると答えた人の割合が3割を超えたんです。この数字から見えるのが、同じ人が、特定のアーティストではなく、K-POPの様々なアーティストに興味を持って、CDを買っていたという状況が見えてきます。確かに、CDの売り上げは増えましたが、その数字が実際のファン数の増加と、直接的に結びつけるのは危険だと言うことです。
そんな状況の中、マスメディアはK-POP人気を過信し過ぎていたところがあったと思います。そして一気に、2012年の春には、そのムーブメントにも陰りが見えて、ネット上では「オワコン(終わったコンテンツ)」などと言われるようになってきた。確かに、数字を下支えしてきたにわかファンは、どんどん離れていきました。そこにとどめを刺したのは、2012年夏以降の政治的な動きだったのかなと思っています。
―なぜ、2012年春にムーブメントは終わったのでしょうか?
ムーブメントは2012年春に、終わるべくして終わった。政治情勢は関係ないと。
古家:竹島問題は、日韓間の重要課題として、これまでも常に問題になってきました。私も韓国関連の仕事を13年間続けてきましたが、その間、何度も領土問題の影響で、イベントがなくなったり、番組がなくなったりといった出来事がありました。慰安婦問題や教科書問題も同じです。ですから、2012年の当時の李明博大統領の竹島上陸も、日本のK-POP人気に大きな影響を与えたとは言えません。この時点では、K-POPファンも「政治と文化は別だから」という視点で、受け止めていたはずです。
どちらかというと、天皇陛下への謝罪要求発言の方が影響が大きかったですね。私の周りでも、あれで韓流やK-POPが嫌いになったという人がたくさんいました。
ただ、K-POPへの影響というと、時を同じくして、一部のアイドルたちが政治的発言をしたことのほうが大きかったです。日本ではあまり取り上げられませんでしたが。それまでアイドルは政治的発言をすることは、ほとんどなかったんですけど。
これは、K-POPのアイドルが日本をはじめアジアや南米、欧州などで勢力をふるいはじめた時期に、自分たちの力を過信したんだと思うんですね。自分たちがメッセンジャーとして、韓国国民を代表して発信したい、それが美徳として見られると、勘違いした人が少なからずいた。
自国ではよかったと思います。ただ、世間一般から見たときに、日本で稼いでいる人間が、帰ったら反日発言か・・・という失望は、相当大きかったようです。これをきっかけに、日本のK-POPファンの一定数は離れた可能性があります。政治的発言という点で考えたら、李明博前大統領よりも、K-POPアイドル自らが発信することの方が、ダメージが大きかった。
【BIGBANGや東方神起の人気に変わりなし】
―2012年の春ににわかファンが離れていった以降、日本のK-POP市場は、どのような状況になったのでしょう。
古家:にわかファンはいなくなりましたが、その一方で、変わっていない部分もあります。2009年の東方神起の分裂の時期と、2014年に入ってからも、先の政治的発言に失望したファンもいるとはいえ、ファンの数はほとんど変わっていないはずです。サブカルとして人気を得ていた時期からファンだった人は、相変わらずK-POPを応援している人も多いですし。2009年の段階で相当数のファンがいて、そのファン層は変わらず韓国の音楽や文化に関心をもっていらっしゃいます。
ですからBIGBANGが、昨年から今年にかけて行った6大ドームツアーは大成功でしたよね。合計で77万人以上を動員しています。また、相変わらず東方神起の全国ツアーはどこもチケットの入手は困難ですし、SUPER JUNIORやSHINee、2PMのアリーナクラスの会場で行われるコンサートもチケットは売れています。K-POPという枠組みとしてどこまで考えるかは別として、韓国人アーティストたちの人気は、これだけ見ても、大丈夫なんじゃないかと。
―では、ムーブメントが去ったとはいえ、日本市場は韓国の音楽業界にとって、おいしい市場なのでしょうか?
古家:少し古い数字ですが、KOCCA(韓国コンテンツ振興院)によると、2009年の日本のレコード市場規模は韓国ウォン換算で、6兆8000億ウォン。この数字は、アジアの音楽市場の77%を占めています。韓国が、4500億ウォン規模と言われていますから、いかにその差が大きいか。音盤ビジネスの規模で言うと、日本の市場は韓国の30倍と言われています。さらに、IFPI(国際レコード産業連盟)の発表では、2012年には日本はアメリカを抜いて、音楽ソフトの売り上げ合計額で世界1位です。それだけ大きな市場が、飛行機に乗って1時間半のところにあるわけです。だから、いくら日本での売上が落ちたといっても、韓国とは比較にならない市場が日本にはあるのです。実際、KOCCAのリサーチで、韓国の音楽産業の売上額で、2012年には約8割を日本で稼いでいる実態も明らかになっています。
―とはいっても、現在はさすがに8割という構造に変化があるのではないですか。
古家:去年あたりは変わってきていると思います。為替の問題やムーブメントの終焉に伴って、日本市場だけには頼れないという状況が出てきています。ですから、韓国の大手芸能事務所は今、必死に“次の日本”を開拓しようとしています。
中国市場の攻略という点では、SMエンターテイメントの巧みな戦略は注目に値します。今アジア中で人気のボーイズグループEXOがその主人公で、最初から中国市場をターゲットにしています。韓国で活動するEXO-Kと中国で活動するEXO-Mに分かれて、両国で同時に活動するというコンセプトで2012年にデビューしましたが、昨年、彼らがEXOとして12人で活動するようになって一気に大ブレイクしました。全員がイケメンというのも凄いですが、とにかく人気で、昨年、音楽不況と言われる韓国で、リパッケージや中国語盤も併せてとは言え、トータルでファーストフルアルバムを100万枚売ったほどです。彼らの成功は、先輩グループSUPER JUNIORの中国での展開がベースにありますが、やはり中国市場での人気からの波及効果を見据えたSMエンターテイメントのアジア展開は、巧みと言わざるを得ません。
こういう動きは日本の音楽市場の縮小も関係しています。日本では握手会やイベント参加券などを通じて、CDの売上を伸ばそうと努力されていますが、この手法にも限界が来ています。ただ日本の凄いところは、ライブにお金をしっかり払ってきてくれる人がたくさんいるところです。今でもK-POPのライブやコンサートのチケット代の平均は1万円ぐらい。これって欧米のアーティストの来日公演とほぼ一緒。もちろん、それと同等のパフォーマンスを見せてくれる人たちもいるので、一概に高いとは言えないですけど、やっぱり冷静に見ると、高いですよね。
一方で、日本の音楽業界を客観的にみたときに、日本のアーティストでもライブで人が入らなくなってきている現実があります。私が20代の時、今から14、5年前って、みんな音楽に、ライブに夢中になっていましたし、日本武道館をいっぱいに出来るアーティストもたくさんいました。でも今は、本当に少なくなりましたし、レジャーの多様化によって、音楽産業そのものが転換期を迎えていると思うんです。
ですから、日本の今の公演ビジネスを支える意味でも、K-POPアーティストは欠かせない存在になってきているんです。ファンの数は多くないかもしれませんが、とにかく忠誠心をもって応援してくれる日本のファンを味方につければ、これからもK-POPのサブカルとしての人気が衰えることはないと思います。もちろん、コンテンツにもよりますが・・・。
それにしても、BIGBANGのドーム公演をはじめ、動員数が減ってきているとは言え、平均して安定した動員を誇れるイベントって、本当にJ-POPでも少なくなってきていますから、その点でK-POPは日本にとっても美味しいコンテンツであることには変わりありません。ですから、日本の公演ビジネスに関わっている人間からみれば、絶対に失いたくないコンテンツだと思います。それだけビジネスを支えているわけですから、様々な因果関係があるとは言え、単純にK-POPを否定はできないんです。
【こつこつした努力が実を結ぶはず】
―具体的には、どのような活動が韓国のアイドルたちには必要なのでしょう。特にもう一度、日本に入り込むにはどうしたらよいのでしょう。
古家:日本市場がおいしい市場なのは確かなんですが、やっぱり東方神起がなぜここまで大きくなったのかを、原点に返って日韓両国の音楽界は見つめ直した方がいいと思います。彼らは2005年に日本に進出した際、すぐに大きな話題になったわけではありません。かなり苦労した時期もあったと思います。デビュー当時は、韓流ファンにしか知られていませんでしたから。それが、地方キャンペーンを1つひとつ丁寧に徹底して行い、日本のアーティストと同じように、日本語で話し、歌い、その結果、努力が身を結び、大きな人気に結実していきました。
彼らがこつこつと作ってきた道を、今のアイドルたちは車で走り抜けている感じと言えば良いでしょうか。デビューして間もないのに、韓国でステージに立ったことがないのに、日本で一気に大きな会場でコンサートをするなどしてしまった。それが根本的な問題と言えるでしょう。もちろん時間がないのも分かりますし、男性アーティストには軍隊入隊という問題もあるので、短い間に人気を得て、稼ぎたいという気持ちも分かる。ただ、息の長いアイドル、そして人気を得たいと考えているのであれば、東方神起ぐらいの努力をしないと無理なんですね。
ボーイズグループの2PMが、日本で高い人気を誇っているのはなぜか。NHKの番組に出演していることもありますが、日本で丁寧な活動をしているからだと思います。
かといって、2011年当時のムーブメントがまた来るのかというと、私は個人的にそれはないと思います。やはりK-POPは、サブカルであるべきだと思うんです。地上波メディアが取り上げなくなったから、人気がなくなったという人もいるかもしれませんが、別に地上波で取り上げなくても、成功を納めているアーティスト、グループはたくさんいます。サブカルとしては、しっかり根を張っているわけです。そういった意味で、K-POPは2010年からの約3年間で、1ジャンルとしてのその地位をしっかり確立したと言えるのではないでしょうか。
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